
この前動物園で気になる生物を見つけたっす!
突然ですが、あなたは『ハダカデバネズミ』という生物を知っていますか?


上の画像はハダカデバネズミの写真になりますが、毛がなく出っ歯で名前通りの見た目をしています。



かわいらしい見た目っすよね!笑
そんなかわいらしい(?)見た目のハダカデバネズミですが、実は研究者達に注目されている生物です。
研究者達に注目されている理由は、その生態と生命力にあります。
さらに、ハダカデバネズミの研究が今後の再生医療の鍵になる可能性を秘めています。



見た目からは想像できない凄い生物なんっすね!
今回はそんなハダカデバネズミについてとその研究をしている研究室を紹介します。
また、ハダカデバネズミの代表としてゲストが来てくれています。



ゲストに呼ばれた『デバ吉』です。
よろしくお願いします。



デバ吉、よろしくっす!
ハダカデバネズミについて知りたい・これから研究したい人に参考となる記事ですので、最後までお読みいただけますと幸いです。
哺乳類では珍しい生態
その見た目から多くの人の興味を惹くハダカデバネズミですが、研究者達が注目したのは見た目以上にその生態でした。
なぜハダカデバネズミの生態が注目されたかというと、『真社会性』を形成する極めて珍しい哺乳類だからです。



真社会性の哺乳類は僕達くらいなんですよ。



珍しいのはわかったっすけど、真社会性ってどんな生態なんっすか?



簡単に言うと、女王を中心とした社会を形成する生態です。
身近な例だと、アリやハチを想像してもらえればいいと思います。
2022年までに確認されている真社会性を形成する哺乳類は「ハダカデバネズミ」と「ダマラランドデバネズミ」の2種のみであり、研究者達が注目するのも納得です。
真社会性には以下の3つの条件があります。
- 繁殖個体が限定
- 二世代以上が同居
- 自ら繁殖せずに繁殖個体を手伝う個体が存在
ハダカデバネズミは女王(1匹)・王(1〜3匹)・兵隊・雑用の役割に分かれた数十〜数百の個体でコロニーを形成しており、繁殖個体は女王と王のみ(条件①)でコロニーのほとんどの個体が同じ女王から産まれ(条件②)、兵隊や雑用の個体は女王や王のサポートに徹します(条件③)。
このようにハダカデバネズミの生態は真社会性の条件を満たしていることがわかります。



ちなみに僕は雑用です。



雑用ってことは女王や王にこき使われているってことっすか?
こういうのって女王や王が偉そうにしているイメージっす。



こき使われているかもしれないけど、僕は大変だとは思わないですね。
むしろ女王や王の方が大変だと思いますよ…
真社会性では優遇されているように思われる女王と王ですが、その実態は凄まじく大変です。
まず、女王は生来決まっているわけではなく、女王の個体が死ぬとコロニー内のメス個体数匹によりバトル(女の戦い)が始まり、その勝者が新たな女王となります。
女王となっても女王の座を狙うメス個体によって下克上される可能性があり、そのストレスは尋常ではありません。
実際に同じコロニー内の個体でストレスホルモン値を比較した研究では、女王が最もストレスホルモン値が高いという結果だったそうです。



僕の母親は女王でしたが、下克上されて死んでしまいました…
しかも下克上した相手は妹だったので、複雑な心境です…



女の戦い、恐ろしい…
自分の娘から下克上される可能性もあるんっすね(汗)



女王も大変ですが、王も大変だと聞いています。
王は基本的には女王の言いなりであり、女王に呼ばれたら交尾をしなければなりません。
最初は丸々していた体が日に日にやせ細り、寿命は比較的短い傾向があるようです。
ひどい場合は女王の座を争うバトル(女の戦い)に巻き込まれて死んでしまうこともあるそうです。



王に救いがなさすぎる(泣)



僕は王には絶対なりたくないですね。
兵隊の方がまだマシです。
兵隊は体格の良い非繁殖個体(女王や王以外)がなることが多いです。
普段はあまり動かずに待機していますが、天敵のヘビなどがコロニーに侵入してきた時に真っ先に戦いに行きます。
しかし、基本的にヘビには歯が立たないため、兵隊は自分が食べられることで時間を稼ぎコロニーを守ります。



心臓を捧げよ!



なんかヤバイのが出てきたっす(汗)



彼はコロニーを守って散ったハダカデバネズミの亡霊です。
決して某調査兵団の方ではありません。



そ、そうなんっすね(汗)
そういえば、デバ吉の雑用って具体的にどんなことしてるんっすか?



僕は「ふとん係」を担当しています。



???
雑用の役割は、食料探しやコロニーの環境整備(穴掘りや清掃など)、子育てのサポートなど多岐に渡ります。
上記は典型的な雑用っぽい役割ですが、ハダカデバネズミの特有の雑用の役割に『ふとん係』があります。
ふとん係の説明の前に、上野動物園のTwitterで過去に投稿されたハダカデバネズミの動画をご覧ください。
このように重なり合って寝ているハダカデバネズミの中で下の方にいる個体がふとん係。
ふとん係という特殊な役割が存在するのには、ハダカデバネズミが変温動物であることが関わっています。
変温動物は外部の温度によって体温が変化する動物であり、温度が低下すると体温も低下してしまいます。
特に子どものハダカデバネズミは体温の低下が命に関わる可能性があるので、対応が必要。
そこでふとん係が下敷きになることで自身の体温によって子ども達を保温し、体温の低下を防いでいます。



次世代を守る重要な役割を担っているんですよ。
どんな状態でも寝れる僕の天職です。



名前はゆるいけど、重要な仕事なんっすね!
ただ、ふとん係のハダカデバネズミ達は窒息しないか心配っす(汗)



元々地下で暮らしていることもあって低酸素状態に耐性があるので、その心配はないですよ。
以上のように、ハダカデバネズミの生態は女王を中心として役割分担をした真社会性で成り立っています。
これだけでもとても興味深いですが、ハダカデバネズミの面白さはこれだけではありません。
驚愕の生命力
初めは珍しい真社会性の哺乳類として研究者に注目されたハダカデバネズミでしたが、その驚愕の生命力によりさらに注目されるようになりました。
一般的な小型の動物(マウスなど)の寿命は数年と短いですが、ハダカデバネズミの平均寿命は約30年です。
ただ長生きなだけでなく、ハダカデバネズミは死ぬまで老化の兆候がほとんど見られないので、その多くが健康体で天寿を全うします。
これだけでも十分興味を惹かれますが、最も研究者の興味を引いたのはハダカデバネズミにガン化耐性があることでした。



老化しない?ガン化耐性?
全人類の夢じゃないっすか!



不死ではないので、全人類の夢は大袈裟な気がします。
ただ、僕も生まれてから25年間病気になったことはありませんね。



意外と同世代だったー
ハダカデバネズミのガン化耐性には、『ヒアルロン酸』という物質が関わっていることが研究でわかっています。
ヒアルロン酸はヒトの体内にも存在し、特に皮膚では水分を保つことで乾燥を防ぐ役割を果たしています。
ヒアルロン酸についてもっと知りたい方は生化学工業株式会社の説明がわかりやすいので、ご覧ください。
構造的には、ヒアルロン酸は2種類の糖(グルクロン酸、N-アセチルグルコサミン)が直鎖上に交互に結合した重合体であり、生物によって分子量が異なります。


ハダカデバネズミのヒアルロン酸は分子量がとても大きく、ヒトのヒアルロン酸の5倍以上であることがわかっています。
この分子量の大きいヒアルロン酸に細胞の無秩序な増加(ガン化)を防ぐ働きがあることが示唆されており、natureに掲載された論文ではヒアルロン酸の分子量を小さくしたハダカデバネズミの細胞がガン化したという研究結果が得られています。



ヒアルロン酸、凄いっす!



ヒアルロン酸には肌をピチピチにする効果もあるので、それが老化耐性にも繋がっているのかもしれませんね。
そんな老化耐性やガン化耐性をもつハダカデバネズミの細胞からiPS細胞を作成したという論文(nature communications)が2016年に掲載されました。
ヒトやマウスの細胞から作成したiPS細胞は未分化状態での移植後に腫瘍形成のリスクがありますが、ハダカデバネズミiPS細胞は移植後に腫瘍が形成されなかったと論文には書かれています。
このことから、ハダカデバネズミiPS細胞と他の哺乳類由来のiPS細胞で遺伝子の比較が行なわれました。
その結果、ハダカデバネズミiPS細胞ではガン抑制遺伝子『ARF』が活性化され、逆にガン遺伝子である『ERAS』は不活性化していることがわかりました。
逆に言うと、ヒトを始めとした他の哺乳類由来のiPS細胞では、ARFが不活性化しERASが活性化しているため腫瘍が形成されてしまうということです。


ハダカデバネズミiPS細胞で腫瘍が形成されないメカニズムが今後ヒトiPS細胞に応用されることが期待されています。



僕達の研究が再生医療の鍵を握っているかもしれないんです。



今後にも期待っすね!
ハダカデバネズミを扱う研究室
哺乳類では珍しい『真社会性』という生態や『老化耐性・ガン化耐性』といった能力をもつハダカデバネズミ。
ここまで読んでいただいた読者の皆様には、ハダカデバネズミに興味をもっていただけたかと思います。



ハダカデバネズミ、めっちゃ興味深い生物っすね!
ぜひとも研究してみたいっす!



ノウキンさんのような研究者のために、僕達ハダカデバネズミの研究をしている日本の研究室を紹介します。
日本でハダカデバネズミの研究ができるのは、『熊本大学大学院 生命科学研究部』にあるハダカデバネズミ研究室、通称『くまだいデバ研』です。
2022年現在、ハダカデバネズミを飼育している日本で唯一の研究室ですので、ハダカデバネズミの研究がしたい場合は『くまだいデバ研』ほぼ一択になります。



ハダカデバネズミの研究はここでしかできないんっすねー



『くまだいデバ研』で飼育されているハダカデバネズミの数は約600匹なので、国内で今後ここを超える規模の研究室は出てこないと思います。



600匹!?
すごい規模っすね!



規模だけでなく、率いている先生も凄いですよ。
『くまだいデバ研』を率いる三浦恭子氏は、2017年11月に熊本大学大学院の准教授に着任し『くまだいデバ研』を立ち上げました。
学生時代はiPS細胞で有名な山中伸弥氏を師事していたこともあり、上述したハダカデバネズミiPS細胞を作成しています。
その功績が評価されて2018年には科学技術分野で文部科学大臣表彰をされています。



文部科学大臣表彰!
つまり、国から期待されている研究者ってことっすね!



今後のハダカデバネズミの研究は三浦先生の手に掛かっていると言っても過言ではありません。



『くまだいデバ研』要チェックっすね!
以下に『くまだいデバ研』のホームページとTwitterを載せますので、興味ある方はチェックしてみてください。
エピローグ



めっちゃ面白かった!
ハダカデバネズミについてもっと知りたくなったっす!



僕達についてもっと知りたいなら、オススメの本がありますよ。
本記事の参考書籍は以下になります。
ハダカデバネズミの写真やイラストがカラーで見やすく、本記事で紹介できなかった内容が数多く書かれています。
また、三浦准教授を始めとした『くまだいデバ研』メンバーのインタビューもあり、ハダカデバネズミ研究の実体験や今後の見通しなども知ることができます。



表紙からして面白そう!
今度読んでみるっす!



もし本だけで満足できなければ、実際に会いに来るのもありですよ。
ハダカデバネズミは以下の施設で飼育されていますので、興味がある方はぜひ会いに行ってみてください。
- 上野動物園(東京)
- 埼玉県こども動物自然公園(埼玉)
- 体感型動物園iZoo(静岡)
- 円山動物園(北海道)



関東住みなら会いに行きやすいっすね!
デバ吉はどこにいるんっすか?



それは秘密です。
また機会があれば、お会いしましょう。



頑張って見つけてやるっす!笑
デバ吉、今回はありがとうございました!



こちらこそ、ありがとうございました。
今回の記事はこれで終わりです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!